避妊手術のメリット・デメリット

わんちゃんと一緒に暮らしている方の中で一度は避妊手術のことを聞いたことや考えたことがある方も多いのではないでしょうか？

今後わんちゃんを迎える予定のある方、仔犬ちゃんを飼っている方、避妊手術を受けようか迷っている方に特に知ってもらいたい分野となります。

今回は女の子が受ける避妊手術のメリットやデメリット、防ぐことができる病気について詳しくお伝えしたいと思います。

こちらを読んで自分のわんちゃんに避妊手術を受けさせるのか、受けないのかを考えていただければと思います。

どんなことをするの？

わんちゃんも生き物ですから当然、子孫を残すために体の中には繁殖に必要な臓器がいくつか存在します。

女の子では卵巣、子宮、膣、乳腺が生殖器となり各動物病院で多少違いますが、基本的に避妊手術は卵巣と子宮を手術で取り除く卵巣子宮摘出手術や、卵巣のみを手術で取り除く卵巣摘出手術のことをいいます。

基本的には生後6ヶ月をすぎると受けることができますが、避妊手術は全身麻酔での手術となります。

体重（体力）や健康面でわんちゃんの手術に不安がある場合は獣医さんが時期や手術の可不可の判断をします。

メリット

生殖器の病気の発症を防ぐ又はリスクを下げることができる

避妊手術の最大のメリットとも言えます。
簡単に言えば生殖器を体から取ってしまうので病気になる臓器が減ると言うことです。

防ぐことのできる病気については後ほど詳しくお伝えします。

発情による体調の変化がなくなる

避妊手術の方法にもよりますが卵巣摘出手術、卵巣子宮摘出手術の場合は基本的に避妊手術後は発情はありません。

（卵巣組織全体が取り切れずごく一部が残ったり、片側の卵巣が見つけられなかった場合は手術後も発情の兆候が見られます。）　

なので陰部からの出血やそれに伴う頻繁に陰部を舐める行為、頻尿、不安がる様子などは見られなくなります。
結果的に出血で部屋を汚さないようになったり、精神面でも安定した状態で過ごすことができるのでストレス軽減にもつながります。

ドッグランやドックカフェなどわんちゃんが集まる場所でのトラブルを回避することができる

発情したメス犬にオス犬は反応します。

そのためほとんどの施設は他の犬同士のトラブルを避けるべく発情中のメス犬の入場を禁止しています。

避妊手術をしていれば発情が原因でのトラブルは起きないので時期を気にしないで愛犬と気持ちよく利用することができます。

予期せぬ妊娠を防ぐことができる

オスメスの多頭飼いの場合普段からしっかり対策をして気をつけていても100%大丈夫とはいえません。

また、1頭で飼っていても気を抜いてはいけません。

公園などで少し目を離した隙に交配し、望まない妊娠につながってしまう恐れがあるからです。

多頭飼育崩壊の原因の多くは「一緒に飼っていて気づいたら仔犬が産まれていた」「避妊・去勢手術代が出せずに渋っていたらさらに頭数が増え、手の施しようがなくなってしまった」など、

飼い主さんの知識不足、不注意によって不幸なわんちゃんがたくさん生まれてしまっているのです。

適切な時期に避妊手術を受けていればそういった事態は避けられたのではないでしょうか。

※名古屋市では不必要な繁殖と周囲に対する危害・迷惑を防止する目的で避妊補助制度があり、市内の保健センター又は動物愛護センターで避妊去勢手術補助券を交付しています。（補助券には有効期間がありますので注意してください。）

また、助成するにあたって補助対象の規定や注意事項もありますので希望される方、詳しく知りたい方は一度下に記載している市内の保健センター又は動物愛護センターに問い合わせてみてください。（2022年2月現在）

※名古屋市動物愛護センターは現在、新型コロナウイルス感染症の関係で業務の一部が縮小しており、お問い合わせ先が従来の番号と違います。ご注意ください。

デメリット

太りやすくなる

避妊手術で子宮・卵巣を取り除くと1日の基礎代謝量は避妊手術前に比べ減りますが食欲は増す傾向があり、太りやすくなると言われています。

手術後、体重が増えてきたなと感じた場合はご飯の量を調節したり、低脂質のご飯を選ぶなどの食事の見直しや適度な運動を行い体重が増えすぎないよう気をつけましょう。

太り過ぎてしまうと心臓病や糖尿病、関節炎など様々な病気のリスクが高まりますので注意しましょう。

尿失禁をおこすようになる

約4%と稀ではありますが避妊手術をすることで分泌されるホルモン量が減り、尿道括約筋が薄く弱くなってしまうことでお漏らしをしてしまうことがあります。（ホルモン反応性尿失禁）

このような場合、薬（ホルモン剤）を使うことで尿道を閉める筋肉を回復させていくことができます。

全身麻酔のリスク

今の獣医療技術でも残念ながら全身麻酔によるリスク（副作用）はゼロではありません。

そのため一般的には手術前に血液検査など今の状態を調べた上で手術できるか獣医さんが判断します。

それでもリスクはゼロではありません。

しかしながら健康なわんちゃんに行う手術と病気になってから行う手術とではリスクもまた大きく変わっていきます。

見方を変えれば健康な時に手術をしたほうがより安全だということです。

手術で使用した糸に体が反応してしまう

手術で使用した糸の周りに主に反応し、しこりや炎症がおきることがあります。（縫合糸反応性肉芽腫）

様々な犬種でおきるとされていますが、その中でも特にミニチュアダックスフントに多いと言われております。

数年かけてゆっくり大きくなるものもあれば手術から数年たってやっと存在に気づくものまで様々です。

お腹の中にしこりができた場合、状況によっては手術で取り除くことがあるので少し注意が必要です。

妊娠できなくなる

子宮や卵巣などの生殖器は一度体から取ってしまうと自然に再生することはありません。

避妊手術は生涯に一度だけの経験と言えますが、言い方を変えれば一度取ってしまえば繁殖不可能と言うことになります。

繁殖を考えている飼い主さんはわんちゃんの年齢や健康状態を考え慎重に決定してあげましょう。

手術後の痛みや違和感、エリザベスカラーによるストレス

避妊手術後から抜糸を行うまでは手術した場所を保護するためにエリザベスカラーの着用指示が出る動物病院が多いようです。

その際手術した場所の痛みや違和感によるストレス、エリザベスカラー着用によるストレスなどが生じます。

また、かわいそうだからと言ってエリザベスカラーを勝手に外してしまうと手術した場所を自分で舐めたり、引っ掻いたりして傷口が開き、最悪の場合細菌感染を起こしてさらに痛い思いをすることになります。

エリザベスカラーも着ける日にちが伸びて結果的にストレスが増すことにも繋がりかねません。

わんちゃんを見ていて辛くなる気持ちはわかりますが獣医さんの許可がでるまではエリザベスカラーをつけたまま少し我慢してもらいましょう。

避妊手術で防ぐことができる病気

子宮蓄膿症

子宮内に膿が貯まる病気です。

発情周期に伴って卵巣から分泌されるプロゲステロン（黄体ホルモン）は子宮内膜の増殖を促す働きがあります。

発情が繰り返されると子宮内膜の増殖が進んでいき子宮壁に病的な袋状のものが増殖していきます。

この状態の子宮内は細菌感染に対する防御性能が弱い為、外陰部から感染がおこることで子宮内で細菌が増殖し、膿が貯まっていきます。

膿を詳しく調べると多くは大腸菌で60~70%を占めています。

他にはブドウ球菌、レンサ球菌、サルモネラ菌などの細菌も検出されます。

出産経験のない子や長く繁殖していない中・高齢期のわんちゃんで見られることが多いです。

（発症に交配や出産の有無は関係ありません。）

発情周期の後期である黄体期（発情期終了後2〜3ヶ月以内）に発症するケースが特に多いです。

主に元気消失、食欲不振、多飲多尿などの症状が見られ進行すると嘔吐、下痢、脱水、発熱やお腹の張り、外陰部からの排膿（見られない場合もある）が見られるようになります。

さらに重篤になると腎不全、腹膜炎、敗血症、多臓器不全をおこし死亡します。

子宮粘液症

子宮内に粘液が貯まる病気です。

子宮蓄膿症とは違い黄体期に症状がでるわけではなく、子宮や膣の奇形などの異常でおきる先天的なものとエストロゲン（女性ホルモン）やアンドロゲン（男性ホルモン）などのホルモン剤を長期間服用していたことによって発症する2つが主な原因となります。

外陰部からの漏れ出る粘液は白く濁りのあるねばねばした粘液や透明でさらさらした液体、細胞の一部が入った粘液など様々な粘液が貯まります。

子宮蓄膿症とは違い、この粘液からは細菌はほとんど見られません。

主に発情がみられなくなる、お腹の張り、外陰部からの粘液が漏れ出るなどの症状があります。

卵巣腫瘍

卵巣の表面や卵巣となる細胞などから腫瘍が発生する病気です。

卵巣に腫瘍ができる頻度は低く、腫瘍も良性の場合が多いと言われておりますが、悪性の場合も少なからずあります。

卵巣腫瘍は発育速度が遅く、お腹の中で成長していくのでかなり大きくなってから気づくことが多いです。

一般的には避妊手術の際に初期段階の状態で発見されることが多いです。

腫瘍の種類によっては転移してしまうものもあります。

歳をとるにつれて腫瘍の発生率は増加しますが2～3歳ぐらいの若いわんちゃんでも見られることがあります。

腫瘍の大きさは顕微鏡で確認して初めてわかるものから握りこぶし程のものまで大きさは様々です。

無症状なことが多いですが、主な症状として不規則な性周期、持続性の発情、毛が硬くなる、脱毛が見られるようになり腫瘍が大きくなるとさらに食欲不振、嘔吐が見られるようになります。

腫瘍の種類によってはエストロゲンを過剰に分泌することによって子宮腺過形成、子宮内膜炎、貧血、出血傾向など重篤になるケースもあります。

子宮の腫瘍

子宮の腫瘍は比較的少ないですが子宮体や卵巣と子宮の間の子宮角に腫瘍が発生する病気です。

子宮に腫瘍ができる頻度は低いとされています。

卵巣腫瘍と同様に良性の場合が多いと言われておりますが、悪性の場合も少なからずあります。

子宮の腫瘍も発育速度が遅く、お腹の中で成長していくのでかなり大きくなってから気づくことが多いです。

一般的には避妊手術の際に初期段階の状態で発見されることが多いです。

こちらの場合も多くが無症状ですが、腫瘍が大きくなると外陰部が出っ張ったり、お腹が張って排便・排尿障害をおこすことがあります。

また子宮蓄膿症を併発することもあります。

乳腺腫瘍

乳腺に腫瘍が発生する病気です。

トイプードルやチワワ、ミニチュアダックスフントなどの小型犬に多いとされております。

良性か悪性かの判断は腫瘍を取り除いて専門の機関に検査してもらうことで結果が出ます。

全腫瘍の30%は乳腺腫瘍と言われており、そのうちの乳腺腫瘍が悪性である確率は約50%と言われております。

悪性の場合再発率も高く、一度取ったからもう安心！とはいかないのが乳腺腫瘍の恐ろしいところです。

またすぐに乳腺腫瘍ができたり、さらには肺や全身に転移することもあり、転移すると臓器の機能を低下させてしまいます。

中・高齢期に見られることが多いですが、発症に妊娠・出産の有無や発情周期の異常は関係ありません。

しかしながら初めての発情より前に避妊手術で卵巣を取ったわんちゃんで乳腺腫瘍の発症率は0.5%、2回目の発情前に取ったわんちゃんで8%、2回目の発情以降で取ったわんちゃんでは26%と発情回数が増えるとともに乳腺腫瘍の発症率が高くなるという研究データもでております。

仔犬ちゃんを家族に向かい入れた段階で繁殖を希望していないのであれば、初めての発情がおきる前に避妊手術を受けることが予防としては最も良いと言えるでしょう。

膣脱

発情の際に外陰部から膣壁の一部が飛び出してしまっている状態のことです。

発情時にエストロゲン（女性ホルモン）の作用により膣が大きくドーム状になって外に飛び出してしまったものと考えられています。

発情が終われば症状は改善されますが、発情のたびに繰り返す可能性があります。

病状が進行するとドーナツ状に膣が飛び出して元に戻らなくなることがあります。

この症状は避妊手術を行うことが最善の方法となります。

繁殖を希望しない場合は速やかに避妊手術を受けることをオススメします。

また、膣脱は遺伝する可能性があるため繁殖に使用しないことが望ましいです。

偽妊娠

妊娠していないのにも関わらず著しい乳腺の腫り、乳汁分泌や巣作りをするなどの行動が見られた場合は偽妊娠と診断されることがあります。

わんちゃんは妊娠の有無にかかわらず排卵後の黄体機能は約2ヶ月間維持されます。

そのため妊娠していないわんちゃんでもプロゲステロン（黄体ホルモン）の作用により乳腺がある程度大きく腫れます。

この状態を生理的な偽妊娠と呼び、問題はありません。

問題となる偽妊娠は乳腺が非常に大きく腫れる、食欲不振、神経質になる、攻撃的になる、おもちゃをかわいがる、巣作りをするなどの症状が見られることですが、わんちゃんによって症状の度合いは様々です。

妊娠期の後半に脳（下垂体前葉）からプロラクチン（乳汁分泌ホルモン）が高濃度に分泌されるために症状が見られます。

妊娠していないのに妊娠期と同様に分泌されることについては未だ解明されておりません。

偽妊娠は室内で大切に飼育されているわんちゃんに多く見られる傾向があり、発情ごとに偽妊娠を繰り返すと言われております。

偽妊娠は生理的な現象ですので治療を行わないことが多いです。

持続的な乳汁分泌は自分で舐めるなどの刺激によってプロラクチン（乳汁分泌ホルモン）の分泌が促されておこります。

そのため乳汁を止めることがなかなか難しいようです。

エリザベスカラーを着けることで自分で舐めるといった刺激を与える行為は難しくなり、やがて自然と落ち着いていきます。

しかし、乳汁分泌がとても多かったり、乳腺に熱をもっていたり、攻撃性・神経質などの精神的な症状が強い場合は薬の投与が必要になることがあります。

最後に

わんちゃんにとって避妊手術は一生に一度の経験となります。

避妊手術は強制ではありません。

避妊手術をするかしないかは飼い主さん次第です。

避妊手術に対して不安な気持ちや迷いが少しでもある場合はかかりつけの獣医さんに納得するまでしっかりと相談することをオススメします。

避妊手術だけでなく全てに言えますがメリットがあればそこには必ずデメリットも存在します。

私も実際、健康な子にメスを入れるのはかわいそうという意見を聞いたことがあります。

確かに痛いのはかわいそうですし、できれば変わってあげたいものですよね。

しかしながらわんちゃんの生涯、十数年という長い目で見た時、避妊手術は大きなメリットと充分に言えるのではないでしょうか？

大きなメリットのためにわずかなデメリットを乗り越え、1頭でも多くわんちゃんが健康で長生きして「あのとき避妊手術しておけば良かった」と後悔の無いよう、わんちゃんと向き合って日々生活してもらいたいと思います。